せんぼんぐらばー館

「あっこの大将、天才やで」
もういつのことか思い出せないほど前に(確実に前世紀)、京都一の料理写真家がこの店を評してそう言った。その後、どのタイミングで初訪問したかも覚えていないが、以来20年以上途切れず通い続けている。カウンターとテーブル2卓の狭い店なので、店で食べるよりも持ち帰りを利用するほうが圧倒的に多い。ここは昔から持ち帰りをやっていて、界隈の人たちにめちゃくちゃ重宝がられているのだ。

なんてことない絶品ラーメン

頼む料理はいつも同じで、エビチリ、茄子ミンチ、焼売、中華丼の大。汁物は持ち帰りが出来ないので、どうしても麺が食べたいときは店に行く。店名からも分かるように、長崎ちゃんぽんや皿うどんが名物なのだが、我が家の定番は八宝麺。五目をさらに豪華にした具沢山のラーメンで、少しとろみのある熱々のスープが五臓六腑に沁み入る。もちろん五目や、なんてことない普通のラーメンもとても美味しく、毎回「こういうのでいいんだよ!」と叫びたくなる。

ぴかぴかの厨房は信頼できる店の証

カウンター席ではいつも大将の動きに見とれてしまう。定位置であるガス台の前で、優雅に舞う大将。大きなお玉でチョイチョイと調味料をすくい、カンカンに熱した鍋の中へ。炒めて、すくって、まわし入れて、炒めて……次々と料理が出来上がる。その鮮やかなお玉さばきは、まさに熟練の技だ。

これまで大将と世間話をした記憶はほとんどない。特定の客と盛り上がったり、常連に気安く声を掛けるタイプではないように思う。無駄口をきかず、次々と入る注文を手際よく処理していく。その姿を見るたびに「いい店だな」と感じ入り、ラーメンをすすっては「こういうのでいいんだよ!」と何度でも叫びたくなり、そして不意に「ここがなくなったら困るだろうな」と悲しくなる。

大将、どうかいつまでもお元気で。携帯の電話帳に「ぐらばー館」を登録している全員からのお願いです(2021年1月記 写真・文責:atsuko suzuki)。

せんぼんくらばー館
京都市上京区千本通笹屋町上ル西側(笹屋4丁目304‐8)
075-463-6868
11:45~14:00、17:00~21:00
水・土曜休(不定休あり)